秘め恋
首筋にとめどなく汗が流れるのを感じつつ二人はしばらく砂浜を歩いた。
そのまま五分ほど行くと、とうもろこしやたこ焼きを売っている売店のそばにビニールシートを広げている最中のイクトを見つけた。周囲には、イクトと同じように居場所を確保する家族連れや若者の集団が多く見られる。
マサが軽く手を振りあげた時、イクトもマサに気付き手を振り返した。
「今日はありがとな。来てくれて」
好青年の口調でイクトは言い、マサとマサの隣に立つアオイを交互に見た。
イクトはアオイを見ると驚いたかのように目をしばたかせた。それを見てマサは嫌な予感がした。その感覚を振り払うべくアオイのことを紹介する。
「この人は俺のバイト先の店長で、アオイ」
店長だけど友達なんだ。マサがそう付け足そうとした時、その先の言葉をかっさらうように、アオイが口早に自己紹介を始めた。
「はじめまして。今日はお誘いいただきありがとうございます。マサと付き合ってます。今日はよろしくお願いしますね」
営業スマイル百パーセントで何のためらいもなく、アオイは嘘を言ってのけた。
友達にならついさっきなったばかりだがいつ彼女と付き合う話になったのかマサには謎だった。勢いよくアオイの腕を引っ張りイクトから距離を取ると、彼に聞こえないよう小声で彼女の耳元にツッコミを入れる。
「何言ってるの!? 結婚してるクセに!」
「へへっ。なかなかの演技力だと思わない?」
イタズラが成功した子供のようにアオイはにへらと笑った。