秘め恋
「私はユミ。イクトとは同じ大学なの。マサ君ともタメだよ。今日は楽しもうね〜。あ、更衣室あっちだって。アオイちゃん、行こ」
「うん、ありがとう。マサ、行ってくるね」
大人びたユミと並ぶとアオイの声や容姿の幼さが際立つと、マサは思った。
あれがイクトの今の彼女か。リオちゃんとはずいぶんかけ離れたタイプだけど、ああいう子がタイプだったっけ? 女の好みってそんな簡単に変わるもん?
イクトへの警戒心も手伝って、ついつい分析してしまう。
リオを含め、イクトは今まで可愛い系と付き合うことが多かった。それで言うとユミは正反対のタイプだ。
恋をしたら好みなど関係なくなるのだろうか。やはり恋をしたことのないマサには分からなかった。そんな自分が少しだけ切なく感じる。
アオイとユミが着替えに行ってしまったので、マサはイクトと二人きりになった。何となく気まずい。
黙々とビニールボートに空気を入れ平然を装っていると、
「やっぱお前、ああいう系が好きなんだな」
イクトがニヤニヤしながら言った。そこにはもうリオへのこだわりを感じない。もしまだ未練があるならそんな顔はできないだろう。
そう思うと、マサは少しだけ安心した。
「それはこっちのセリフ。ユミちゃん、今までの彼女とだいぶ違うし」
「クールで近寄りづらそうに見えるだろ? でも、ああ見えて優しいし料理上手だし気配りもできるしでいい女なんだよ。他の男に愛想振りまかないとこなんてもう最高!」
「そうなんだ」
「リオは誰彼かまわずニコニコしてただろー? 自分に気のある男相手にもさ。今だから言えるけど、それがけっこう不満だったんだよなー。俺、嫉妬深いから」
マサには初耳だった。リオと交際中、誰とでも仲良くできる明るいリオが好きだとイクトは言っていたからだ。それこそノロケのように。
彼の嫉妬深さならもう嫌ほど痛感しているので、そのことには今さら驚かないけれど。