秘め恋
「イクト、そんなこと思ってたんだ」
「まあな。モテる女と付き合うのは楽しいのと同じくらい苦しいもんだな」
イクトは意味深な視線をマサに向けた。
「マサも今そうだろ? アオイちゃんモテそうだし、彼氏としては大変だよな」
「え、いや。別に、そんなことないけど」
味気ない答えになる。それもそうだ。実際はアオイと付き合ってなどいないのだから。むしろ彼女は結婚している。
それに、アオイがいてもいなくても、イクトの言うような独占欲や嫉妬心も感じたことは今まで一度もない。それが恋をしたことがある人間とそうでない人間の差だとマサは思った。
そんなこと知るよしもないイクトはいやらしく目を細め、マサの言葉を強がりだと決めつけた。
「まあ分かるよ。認めたくない気持ちは。でも、アオイちゃんのことちゃんと繋ぎとめておかないとフラフラっと他の男の元に行っちゃうぜー? モテる女は選択肢も多いんだから」
「……アオイはそんな女じゃない」
マサは反射的にそう言っていた。
イクトの態度はいたって丸いが、言葉の節々にリオの件へのこだわりが見える。イクトにその気がないのだとしても、マサにはそう感じられて仕方なかった。
イクトと再び仲良くできるのならどんな恨み言を言われても聞き流すつもりだった。それでイクトの気がすむならその方がいい。それ以外に償い方を知らないというのもある。
しかし、アオイのことを引き合いに出されるのは想定外だった。アオイとは恋人のフリをしているだけに過ぎないのでイクトの忠告は無意味だ。
それでも、彼女を軽い女扱いされたことがマサの癪に障った。