秘め恋

 たしかにアオイはモテそうだ。しかし軽い女ではない。彼女のプライベートなどそこまで詳しく知らないが、男との外出に結婚指輪をはめて足を運ぶほど彼女が旦那に惚れ込んでいるということだけは知っている。

「一途で思いやりがあってバイト達にも公平で。アオイはいいやつだ。そういうこと言うのやめてくれる?」

「な、おい。そこまで怒ることかよ……!?」

 イクトは面食らっている。それもそのはず。これまでのマサは、ここまであからさまに怒りを表すタイプではなかった。

 マサの変化に戸惑いつつ、イクトは謝った。

「悪かったよ。ごめん。アオイちゃんを悪く言うつもりはなかった」

「ああ、うん。こっちもなんかごめん。変なスイッチ入った。今の忘れて」

「変なスイッチ、か。本気なんだな、アオイちゃんに」

「さあね」

 イクトの言葉を右から左に流すよう、マサは意識した。まともに受け止めていたら大変なことになる。

 本気もなにもないでしょ。海要員になるため駆けつけてくれた既婚者相手にさ。

 アオイが善意で残していった嘘が、この時ひしひしとマサの心に絡みついていくようだった。

 付き合っているフリをすることで一時的に守られたマサのプライドは、かすかな不安に色を変えていく。

 その不安の中身を見ないよう、マサはさりげなく話題を変えたのだった。


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