秘め恋

 ユミもユミでアオイに親近感を持ったらしく、着替えをすませて更衣室を出る頃、二人はすっかり打ち解けていた。

 砂浜に戻りつつ、二人は互いの今の彼氏の話で盛り上がる。

「でも、マサ君とはうまくいってるんでしょ?」

「うん。そうだね。マサは優しいし頼もしいよ」

 ユミと仲良くなった分、嘘への罪悪感が大きくなるのを感じつつアオイはそう答えた。本心だった。

 マサは初対面の頃からツンとした表情をしていてつかみどころがなかったし仲良くなった今でも意地悪なところがあるが、自然な笑顔で接客をしたり雑用をなんなくこなす器用さがある。

 それに、今日改めて分かったことだが彼は優しい。車に乗る前も乗ってからも、女性に対する振る舞い方が完璧だった。仁も優しくマメなタイプではあるが仁は生涯のパートナーだ。言い方は悪いが結婚相手に優しくするのは当たり前。

 そうではなく、恋愛の絡まない男性が優しいことにアオイは少なからず戸惑い、正直な話ドキドキしてしまった。そんな気持ちになるのは仁に片想いしていた頃以来である。

 男の子ってこんなに優しかったっけ?

 仁以外の男性が優しいのだということを、この日までアオイは知らなかった。

 カフェの男性客はたいてい紳士的なものの下品な言葉でからかってくる者もたまにいるし、過去に思いを寄せてきた元カレ達も優しさを見せるのは付き合いたての頃だけで、アオイの性格を知ると悪びれなく雑な接し方になった。

 マサの優しさは、昔告白してきた男性達が初期に見せた態度に通ずるものがある。

 うぬぼれかもしれないけど、もしかしてマサに異性として見られてる? だったら、こっちが友情って思っててもマサとは友達になれないよね……。
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