秘め恋
いつも思うのだが、今日もそう。
朝から夜までの通し勤務をしているマサにとって、アオイと二人きりにされてしまうこの時間が最も苦痛だった。苦手なタイプを前に気の利いた雑談をして場をやり過ごすという処世術を、マサは持ち合わせていなかった。
何とも思っていない人の前でならもう少し気を遣ってもいいけど、なんかこの人にはそういう上辺だけのやっつけ対応が通じなさそうっていうか。下手したら墓穴掘りそうだし。だったら何もしない方がいいよな。
心の中で、アオイに絡まない理由を探し言い訳してみてもマサの苦手意識は薄らぐことなく、むしろ肥大していく。
アオイは当たりの柔らかい人だ。接客態度についても客からしょっちゅう好意的な感想をもらっている。こんなにいい人は、そうそう出会えるものではない。
なのになぜ自分はこの女性が苦手なのか、マサはやはり分からなかった。
苦痛の二人きりを、いつもなら適当な雑務を探したり接客をしてやり過ごすのだが、今だけはどれも効果がないような気がした。
店長、その顔なんだよ。軽蔑したならしたってはっきり言えば!? 親友の彼女とヤるなんて最低最悪だって思ってんだろ。別に俺、アンタに嫌われたって痛くもかゆくもないし。てか、こっちはアンタのこと嫌いかもだし。
無言の時をただ気まずく感じてしまうマサは、それが自分の発言のせいだということも棚に上げ、次第に苛立ち始めた。適当に布巾を濡らし、汚れてもいないカウンターテーブルを拭くことでイライラをごまかそうとする。腹の底が焼けるように熱い。
親友の彼女とどうこうなったーなんてどこにでもある平凡な話なんだろうけど、すでに旦那のいる人妻には無縁のものだろうな。
……だからって、優等生ぶって当たり障りない返答してくる店長もどうかと思う。
そう、そうだよ。この人のそういうとこが嫌なんだよ。二十三年も生きてたら人の汚さとか絶対持ってるはずなのに、シレッと隠し通して善人面してる感じ。気にくわないんだよなー。