秘め恋
しかし、それはやはり考えすぎだったようで、マサはアオイとの間接キスに平然としていた。間接キスはドジから出たうっかり行動でもちろん他意はなかったが、それが取っ掛かりでアオイは彼に友達になりたいと言い出せたのである。
海に向かう道中、車の中でマサは幾度となく寂しそうな目をしていた。あの瞳の色は、かつてアオイ自身が抱えていたものにひどく似ていた。家族のいない無機質な家の中、一人膝を抱えて両親の顔を見られる時を待っていた。
マサは今でもイクト君とのことで悩んでる。だったら助けたい。私に何ができるのか分からないけど。
その気持ちを再確認すると同時に、アオイはユミに言った。
「マサは今まで出会ったどの人とも違う。芯があってブレなくて。私のダメなところを見ても引かずにいてくれたんだ。だから私もマサのこと支えたい」
「本当に好きなんだね、マサ君のこと。どっちから告白したの?」
「それは内緒!」
とっさにごまかす。そこまで設定を考えていなかった。付き合うことにしたはいいものの、細かい部分にまでは頭が回らない。
「ユミちゃんとイクト君はどっちから告白したの?」
「内緒!」
二人は目を合わせると同時に吹き出した。
しばらく何でもない話で和んだ後、ふいにユミが意味深な声音でこんなことをつぶやいた。
「でも、アオイちゃんってイクトの好みっぽーい。童顔で髪が短くて可愛い系」
「えー? それはないんじゃないかな」
「そうかなぁ」
「そうだよ。ユミちゃんの彼氏なんだから!」
「だよね。ごめん、変なこと言って」
にこりと笑って話を終えたユミに一応笑い返したが、どうしてそんなことを言うのだろうとアオイは疑問が湧いた。
仲が良さそうに見えたがユミとイクトはあまりうまくいっていないのだろうか。
ユミのその一言は、アオイの中で妙なざらつきを残した。