秘め恋
「アオイちゃん、用意いいねー。私も塗ろーっと。イクト、背中にコレ塗って?」
マサとアオイのやり取りに気付いたユミは、自らも日焼け止めを取り出し肌に塗りはじめた。手の届かない背中はイクトに手伝ってもらっている。
「量、こんなもんでいいか?」
「もっと! それじゃ足りない。二時間後くらいにまた塗り直してね」
「分かった分かった」
イクトとユミのやり取りはとても自然だった。イクトは彼女の背中に日焼け止めクリームを塗る。
海デートに臨むカップルによくあるワンシーンであると同時に彼氏の特権でもある。
今のマサにとって、イクトとユミの光景がとても羨ましいものに感じた。
って、何が羨ましいんだよ。高校の時、俺だってやったことあるし。たいして面白い作業でもないし。面倒な上に手がベタベタして気持ち悪いだけだし。
たわいない話をしながらユミの背中に日焼け止めを塗っているイクトを見つつその行為のデメリットを心の中で言い連ねてみても、言葉にならない羨望の感情は消えることなくマサを包んだ。
行きの車中で感じた意味の分からない不安が再びマサの胸を染めていく。
アオイもやっぱり背中は塗りにくいかな?
アオイの方を確認した。
アオイはマサに借りた上着をいったん脱いで、二の腕や鎖骨辺りに丹念な手つきで日焼け止めクリームを塗っている。
アオイにそんな気はないのだろうが、その姿がとても艶かしくて色欲を煽る。
マサは自分に舌打ちしたくなった。
バカか。どんだけ欲求不満なんだよ。
人知れず自分にツッコミを入れてみても、視線はアオイの姿を求めてしまう。