秘め恋
「嫌だったらここまでしない」
「マサ……」
「それに、こうしてないとアオイ人混みに流されてっちゃいそうだし」
本当の恋人にそうしているかのように優しいマサの視線。柔らかい言葉運び。かもしだす雰囲気も、これまでの彼にないほどあたたかい。
私の勘違いだよ。マサが私を女として見るはずない。だって、私達は友達だから。それに、私は結婚してるんだから。色気ないって言われてきた女なんだから。全部、思い過ごしだよ……。
そう思おうとすると心の片隅に薔薇の棘が刺さったかのようにチクリと痛みが走るのはなぜだろう。痛みを無視するために、アオイは満面の笑みを作ってみせた。
「ありがとう。ホントそうだよね。私、人混み歩くの苦手なんだー」
「着替えてユミちゃんとこっち戻って来る時もふらついてたしね」
「えー! 見てたの!? 恥ずかしいなー」
「なんか目立つんだよ、アオイって」
「そうかなー」
何気ない会話の隅々に、マサの言葉の裏にあるものを探ろうとしてしまう。
目立つってどういう意味? 遠くから私のこと見つけてくれてたの?
「イクト達先に海行ったよ。俺達も追いつこ。ここからちょっと歩くと、泳ぎに疲れた時に休める磯とかがあるんだって」
「そうなんだ、楽しみだね」
交わされる会話も、触れ合う手も、楽しかった。そんな気持ちになってはいけないことを分かっていても。