秘め恋
アオイはマサの腕に手を寄せ彼をこちらに引き寄せようとした。マサもそれに従おうと体を動かすと、二人は今までにない近い距離で目が合った。上下のまつ毛や、下手したら小鼻の毛穴まで見られてしまうのではないかというほどの至近距離。細部まで見られるのはさすがに恥ずかしいので、
「何食べる? どれも美味しそう〜」
アオイはマサから視線を外し、やや演技じみた声音でユミとイクトに話題を振った。
「イカ焼きない?」
「オッサンか!」
「偏見。女だってイカ好きなのー」
セクシーな外見に似合わない注文をするユミにイクトはツッコむ。そして、ここへ座ってからどうもぎこちないマサにもツッコミを入れた。
「マサ、さっきから変。どうしたんだよ。アオイちゃんと肩が触れ合ってドキドキしてる? はははっ。そんなくらいのことで動揺する純情なヤツじゃないだろ」
それまで和やかだった空気は一変、一同に緊張が走った。その一言を皮切りに、イクトがマサに攻撃を始めた。
「アオイちゃんは知らないだろうけど、コイツ高校の頃超絶遊び人でさ。来る者拒まずで二股三股も平気でやってたんだよ。影でのあだ名が、『イケメン性欲モンスター』。ウケるだろー?」
「やめなよ、イクト。過去のことでしょ」
ユミが止めた。それに従ったのかどうか分からないが、イクトはそれきりマサを悪く言うことなく今度はフォローに転じた。
「これ悪口じゃないぜ。むしろ男の中では憧れられる存在だった。まあ、ユミの言う通り昔の話だし。今はアオイちゃんがいるから関係ないだろ」
イクトがマサを傷つけたがっているのが分かる。それと同時に、アオイは自分もひどく動揺していることが分かって戸惑った。たしかにマサはモテそうだ。でも、誰彼構わず手を出すような人だったなんて……。正直言ってショックだった。そんな人だとは思わなかった。