秘め恋

「せっかく楽しんでたのにぶち壊さないでよね。アホでしょ」
 
「どーせアホだよ俺は」

 ユミに咎められてもさして反省する様子もなく開き直った態度を見せたイクトは、アオイに対しては別人のように感じ良く対応した。

「ごめんねアオイちゃん。アイツとは前に恋愛絡みで色々あって。今はユミがいるし昔のことは忘れて仲良くしたいと思ってるけど、やっぱり完全になかったことにできたわけじゃないんだ。それで、ついああいうこと言って憂さ晴らししてしまう。やっちゃダメなことだって分かってるんだけど」

「うん。マサから少し聞いてる。イクト君の気持ちも分かるよ。そうしたくなるのも当然だから」

 アオイはイクトを責める気にはなれなかった。もちろん、今でもマサの味方でいたいという気持ちは変わらない。マサの過去に戸惑いはあるものの彼を嫌いになったわけではない。しかし、イクトを責められるほど自分は偉い人間ではないと感じた。イクトは取られた側の人間。かつての玲奈と同じだ。玲奈は決してイクトのようにはならなかったが、仁を奪ったアオイに対していつ意地悪な反撃をしてもおかしくない立場。そう思うと、アオイはイクトに理解を示すしかなかった。それが、かつて人の恋を略奪した自分が唯一するべき言動。

 アオイの事情を知らないイクトは、アオイに共感されたことに少なからず驚き、そして素直に感動した。

「優しいんだね、アオイちゃんって。てっきり怒られるんじゃないかと思った」

「怒らないよ」

 アオイが苦笑すると同時にユミが席を外した。

「トイレ行って来る。イカ焼きとお好み焼き頼んでおいて。二人で先食べてていいよ」
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