秘め恋
「マサとのことで話聞いてほしい。いつか、マサとちゃんとした友達に戻りたいから。本当に」
「イクト君……」
正直、抵抗感はあった。それは既婚者だからというよりユミの気持ちを慮ってのことだった。彼氏が自分以外の女性に深めの相談をしているなんて、女として面白い話ではない。
しかし、マサのために力になりたいと思った気持ちも本物。イクトとマサの仲が元に戻ればイクトの相談役も降りられるし、そうなればユミを不安にさせる要素は丸々なくなる。
迷った挙句、アオイはマサのためにイクトの相談役を引き受けることにした。それが最善だとこの時は思った。
「分かったよ。私でよければ」
「ありがと!」
海の家を飛び出し、無我夢中で走った。そうしてマサは人気のない寂しい岩場にたどり着き、そこでとこでようやく肺が苦しいことに気付き立ち止まった。逃げたところでどうにかなるわけではないのに、気付くとあの場から逃避していた。
恋愛ごっこに明け暮れていた動物のようだった時代を、アオイにだけは知られたくなかった。できることなら最後まで隠し通したかった。
そもそも今日アオイを海へなんか誘わなければよかった。彼氏持ちの女友達に無理を言って付いてきてもらえばこんなことにはならなかったのだ。
たらればを繰り返してみても、絶望的な気持ちは膨らむばかりである。
少し前の自分だったらいつ知られてもいいと思って開き直りすらしていた過去。いざその時が来ると臆病な自分が全面に出て恐怖しか感じなかった。アオイへの気持ちを自覚した今となってはなおさらである。