光をあてる場所
僕は手を伸ばした。
彼にはもう泳ぎきる力が無かった。

僕の行動は理屈ではない。
もっと、本能的というか、なんというか。
気づけば手は伸びていた。

彼は川の底を見てきていた。
そこで見たものを
震えながら僕に教えてくれた。

「底を見るまでは
 生きることすらどうでもよかった。
 でも、それを見るとどうしても生き抜いてみたくなった」
そう、僕に告げた。

不器用な言葉で僕に感謝を告げると
再び川のほうへ歩いていく。

「僕はこうして助かった。
 あなたに助けてもらい、生きる気力を取り戻した。
 でも、まだ底には迷ってる人がいる。
 彼らを助けたい。
 これは、川の底を見てきた僕にしかできないと思うから」

彼の震えはもう止まっていた。
まだ幼さの残る瞳の奥には
信念と魂が宿っているように見えた。
僕の行動がそうだった様に
彼の言葉も理屈ではないのだろう。

彼にとって、微力ながら僕がその拠り所と成れた。
荒れ狂う濁流のなかで掴む事の出来た
枝先のような細い腕。

力の無いこの腕が、
一人の人を助けられた。
僕のこの手は、まだ誰かを助けることが出来る。
僕にとってもこの事実が僕の拠り所となる。

どこかでまだ、
僕を必要としている人がいるなら
その人のために僕は生き続けよう。
書き続けよう。
語り続けよう。

一言の感謝の言葉。
飾りのないその一言で
僕は何度でも立ち上がれる。
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