あの日みた月を君も
「久しぶりに昔よく通った喫茶店で食事でもどう?」

僕は学生の頃、時間さえあれば研究室仲間と行っていた喫茶店の方向を指さして言った。

「そうね。懐かしいわ。行ってみたい。」

アユミは僕の指刺す方向を見つめて答えた。

僕らはゆっくりと夜の学生街を歩き出した。

昨晩はなかなか寝付けないほどに話したいことが山ほどあったのに、言葉がうまく出てこない。

夜空を見上げると、半月が出ていた。

半月の割に満月なみの明るさで夜空を照らしていた。

「今日の月はやけに明るいね。」

月を見ながら言った。

アユミも月を見上げる。

「ほんと。満月でもないのにキラキラしてる。不思議ね。」

「満月だから明るくて、半月だから明るくないなんてことはないんだ。」

「うん。」

アユミは静かに微笑んだ。

以前よりも一回り小さくなってしまったアユミだけれど、だけどアユミはアユミだ。

こうやって会話を繋ぎながら、昔の思いが蘇ってくる。

アユミの優しい声、言葉づかい。

そしてキラキラした丸い瞳。

ちっとも変わらない。

それは半月の輝きと同じような気がした。

喫茶店に入ると、座席のほとんどが学生で埋め尽くされていた。

ああ、この感じ。とても懐かしい。

甘酸っぱい思い出と一緒に、僕の胸が一気に湧いた。

「あの頃は本当に楽しかったわ。この喫茶店選んだあなたは天才ね。」

アユミはいたずらっぽく笑った。

「そうさ、僕は天才なんだ。今頃気づいた?」

僕も笑う。

少しずつ8年のアユミとの距離が縮まっていく。







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