あの日みた月を君も
アユミとはお酒を飲みたくない気分だったから選んだ場所でもある。

せっかく2人きりで久しぶりに会うのに、酔うのはもったいない気がたから。

僕らは喫茶店自慢のハンバーグ定食を頼んだ。

熱々の鉄板に、大きなハンバーグが乗って出て来た。

しばらく湯気でお互いの顔が見えなくなる。

「すごいわね。こんなに大きなハンバーグだったっけ?」

「景気がいいんじゃない?」

「嫌ね。言うことがすっかりサラリーマンだわ。」

アユミは吹き出して笑った。

アユミの笑顔。

そうだった。

この笑顔。

僕がいつも見たくてしょうがなかった笑顔だ。

アユミの笑顔を見ながら僕も笑った。

「私、こんなに食べれない。半分食べて。」

アユミはそう言うと、自分のハンバーグを半分に切って僕の鉄板の上に乗せた。

学生の頃は、ハンバーグ一皿、あっという間に食べていたのに。

この華奢な体は、食欲まで奪ってしまったのか?

「食欲ないの?」

アユミが残りのハンバーグをナイフで切っている手元を見つめながら尋ねた。

「ええ。年かしら。以前のような食欲が湧かなくなっちゃって。でも、ダイエットには丁度いいわ。」

僕は静かに息を吐いた。

「一体何があったの?会わなかったこの8年の間に。」

アユミの目をじっと見つめて尋ねた。

アユミも僕の目をじっと見つめ返した。

心なしかアユミの目は潤んでいるように見える。



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