あの日みた月を君も
翌日。

朝からカスミは浮き足だっていた。

いつもより目元がぱっちりしてるような気がする。

「マスカラつけてきた。」

カスミは私の耳元でこそこそっと言った。

「ふぅん。いつもより目が大きくてかわいいよ。」

そんなこと、思いもしなかったけど、一応褒めてあげた。

私って性格悪。

ヒロの方を見ると、いつものように涼しい横顔を向けて、机の下に文庫本を広げて読んでいた。

終業のチャイムが鳴った時、念のためヒロに確認する。

「今日大丈夫だよね?駅前のカフェ。」

ヒロは無表情なまま私を見下ろした。

「ああ。行くよ。」

「カスミ連れていくから。」

そう言いながら、カスミの肩を引っ張った。

ヒロはペコリと頭を下げるカスミを一瞥すると、ふんともスンとも言わずに教室を出て行った。

「私嫌われてるのかな?」

カスミは泣きそうなマスカラの目で私を見つめる。

「嫌われるほど、カスミと話したことないんだし、きっと大丈夫よ。」

我ながら、慰めてるのかどうなのかわからないこと言ってるな。

「なんだか2人きりになるの心配になってきちゃった。」

「じゃ、一緒にいようか?」

期待が一瞬膨らむ。

一緒にいてよってカスミが懇願してる姿が脳裏をかすめる。

「いや、がんばる。2人きりにならないとお互いのこと何もわからないもの。」

カスミは頑なだった。
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