あの日みた月を君も
「了解。」

心の中でため息をつきながら答えた。

そりゃそうだよね。

2人きりになれるチャンスなんて、そうそうないんだし。

まぁ天体観測部が発足したら、多少はそういう機会もあるかもしれないけどね。

私も席を立った。

カスミとげた箱に向かう。

靴に履き替えて、カスミと肩を並べながら校門を出た。

そういえば。

2人で帰るのって初めて。

学校ではあれだけよく話し掛けてくるカスミだけど、げた箱で靴を履き替えた途端、人が変わったように私のすぐ横をすり抜けて足早に帰っていく。

「こうやって2人で帰るの初めてだね。」

私は前を向いたままカスミに言った。

「そういえば、ほんとそうだね。」

カスミは私の顔をのぞき込んで大きな目で笑った。

「いつも急いで帰ってるけど、何か用事でもあるの?」

私はマスカラの目を見ながら尋ねた。

ちょっとだけマスカラの色が目尻についていた。

「えー。バイト。結構バイト入ってんだよね。うち、母子家庭なの。母だけじゃさすがに厳しいからね。」

意外な答えが返ってきて、ちょっと不真面目な質問をしてしまった自分に後悔する。

「そうなんだ。大変だったんだ。」

「大変なのかなぁ。これが普通だから、麻痺しちゃってるかも。」

カスミは空を見上げて静かに言った。

普通だから麻痺しちゃうか。

大変さが麻痺して普通に感じるってよっぽどだと思う。

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