あの日みた月を君も
「うん。今日このレポート提出期限なの。」

さっき一生懸命机に向かっていたのはそのためだったんだ。

僕はアユミの横の椅子を引いて、少し距離を置いて座る。

「ソウスケはもう実験終わったの?」

「終わったよ。午前中に終わった。もうすぐアルバイトが入ってるから帰ろうと思って。君はまだレポート?」

「ええ。もう少しで終わるんだけど。」

ちらっと時計をみやる。

あと一時間くらいなら時間をつぶせる。

「何時に終わりそう?」

「そうねぇ。あと、30分くらいかな。」

アユミは時計を見て、少し口をとがらして言った。

ちょっと考え事をするときは決まってそんな口になる。

丸顔で口をとがらしたらひよこみたいだって、いつも茶化していた。

「じゃ、終わるまで待ってようかな。一緒に帰ろう。」

アユミの白い肌がほんのりピンクに染まった。

「ありがとう。さっさと仕上げちゃうわ。」

そう言うと、また机上に向かった。

僕は図書館で借りてきた文庫本を鞄から取り出して、読み始める。

時折、開けられた窓から爽やかな風が吹き抜ける。

もうすぐ秋が訪れようとしていた。

この研究室で、アユミと過ごすのもあと半年。

僕たちはどうなっていくんだろう。

その答えは、僕自身まだわからなかった。

どうすればいいのかも。
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