あの日みた月を君も
終業のホームルームの時間。

「じゃ、皆明日の放課後から早速それぞれの役割について準備をとりかかろう。俳優陣はとりあえずシナリオ読んできて。読み合わせをするから。」

先生は黒板を消しながら皆に呼びかけた。

日直の号令でクラスメイト達はばらばらと教室を出て行った。


主人公の峰岸キョウコは、その足でうきうきした顔でヒロのそばにやってきた。

「明日からよろしくね。」

ヒロはキョウコをちらっと見上げて、

「ああ。俺もよくわかんないからよろしく。」

とそっけなく返した。

私はさっさとリュックを背中に背負い、席を立った。

「あ。」

キョウコがそんな私の方を見て言った。

「佐久間さん、私とライバルになるみたいだから、よろしくね。」

なんじゃそれ。

あ、

ああ。そういうこと。

私が片思い役だからか。

私はわざとらしくにっこりキョウコに微笑んだ。

「実はね。カスミと役を交代したの。私は単なる片思いの友達の役。だから安心して、あなたとはライバルにはならないわ。」

「え?そうなの。」

「うん。それじゃ、お先に。」

私はペコリと頭を下げてその場を後にした。

あー。危な。

もうちょっとでライバルにされるとこだったじゃない。

カスミが交代してくれて本当によかったわ。

足取りも軽く家路に急いだ。

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