あの日みた月を君も
黙っているっていうことは、きっとそういうことなんだろうと思った。

何となくこれ以上聞いてはいけないような気がして、僕も黙った。

これで、完全に僕はアユミから離れないといけないことになったってことで。

胸の奥がずきずきしていた。

僕も卒業後は新しい場所で自分の夢に突き進まないといけない。

それまでにはきっと吹っ切れるだろうと自分に言い聞かせた。

「卒論が終わったら、一日だけ私にくれない?」

突然だった。

暗くて、アユミの顔がよく見えない。

「え?」

こういうとき、気が利いた返事が言えない自分に腹が立つ。

「ソウスケと同じ研究室ですごく楽しかったの。卒業したらもう会えなくなるでしょ。最後に一日だけ思い出を作るのに付き合ってほしいなって。ごめん。厚かましいお願いだから、もし嫌なら断ってくれてもいいのよ。」

心臓がすごい速さで脈打っていた。

僕は、どうすればいいんだ?

こんな時。

アユミを抱きしめたい衝動にかられるのを必死に止める。

「・・・いいよ。どこか一緒に遊びに行こう。」

「やった!」

アユミが僕の方を向いた。

月明かりでほんのりとアユミの表情が浮き出る。

アユミはとても嬉しそうに笑っていた。

僕も、本当はすごく嬉しかったのに。

どう反応すればいいのかわからなくて、ただ、困ったような顔をしていたと思う。

僕らは卒論を提出した翌日に会う約束をして別れた。

アユミが乗った最終電車が静かに走り出すのを道からじっと見つめていた。
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