あの日みた月を君も
「ううん、大丈夫。」

どうして、「やっぱり代わって!」って言わなかったんだろうって。

ヒロの方をちらっと見る。

皆が冷やかしてる横で、涼しい顔でシナリオを眺めていた。

奴はドキドキなんかしてないんだろうな。

いつもながらクールに、配役の出来事として達観してるのかもしれない。

そもそもヒロだって、自分からやりたくてやってるわけじゃないのに。

妙に冷静にその役割を受け入れているヒロを見ながら、未だ割り切れず狼狽えてる自分が少し恥ずかしくなった。

ここまできたらやるしかない。

変に恥ずかしがってる方が皆の興味をそそることもわかっていた。

気を取り直して、自分のセリフを改めて眺めた。

ヒロに『本当はずっと君が好きだった』って告白を受けて、

『私もあなたが好きだったの!』って叫びながらヒロに抱きつく・・・か。

あとは、『大好きだよ。』ってヒロに言われて、『私も大好きよ。』って言った後、き、キスする、か。

セリフ、少な!

でも印象強烈・・・。

額に変な汗が噴き出ていた。

教室はそんなに暑くもないのに。

自分のセリフが近づいてくる。

ドキドキするな。

ヒロと目が合った。

「本当はずっと君が好きだった。」

演技だってわかってるんだけど、そんな真剣な眼差しで見つめてこないでよね。

思わず視線を逸らす。

「え、っと。私も、あなたが好きだった、の。」

あまりに動揺して、辿々しく小さい声で読んだ。

「ストーップ!」

担任が私とヒロの前に両手をぶんぶん振りながら出て来た。
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