あの日みた月を君も
「ちょっとちょっと、佐久間さん、それはないぞぉ。」

周りの生徒達もくすくす笑ってる。

確かにね。

自分でもおかしいと思ったけどさ。

こんなセリフ言い慣れてないんだからしょうがないし。

しかも演技するなんて、今まで一度だってしたことないんだから。

「ほら、もっと情感込めて。大山のこと、本気で好きだって思ってみろよ。もちろんこれは演技だ。でも、お前だって昔好きな奴くらいいただろう?大山をその好きな奴だと思って言ってみろ。」

「はぁい。」

心の中で舌打ちしながら、気のない返事をした。

好きな人ねぇ。

確かに中学の時は一個上のバスケの先輩に恋してたこともあった。

だけど完全なる片思いなわけで。

実はその先輩には彼女がいたってすぐわかってあきらめちゃったんだよな。

だから、本気で好き-!って感じの人にも正直まだ出会ってない。

情感こめろって言われても。

「佐久間さん、俺の目、しっかり見て。」

急に前からヒロが言った。

な、何なのよ。

女子達が小さい声で「きゃー。」とか言ってざわついてる。

口をとがらせてヒロの顔を見た。

ヒロの目は長い前髪からキラキラして見えた。

こんな顔してたんだ。

いっつも横顔しか見てなかったから、ヒロの顔って正面からちゃんと見るのは初めてかもしれない。

切れ長だけど、意外と大きな目を見つめた。

思わず、すーっと吸い込まれそうになる。

ここが教室だってことを一瞬忘れてしまうような、不思議な引力を感じる目だった。
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