あの日みた月を君も
吸い込まれそうになるのを必死に堪えながら、ヒロの目を見つめる。

「本当は君のことがずっと好きだった・・・。」

ヒロ、演技うますぎ。

そのセリフと声に、ドキドキが激しくなった。

何これ。

本当に好きになっちゃいそうな、この雰囲気。

「私も・・・。」

そう言い掛けて、心のどこかでそこからの言葉を言い出せない自分がいた。

言っちゃダメみたいな。

抑制された気持ち。

だけど、言っていいのよね?単なるセリフなんだし。

胸を押さえて、もう一度声を出した。

「私も本当は好きだった。」

「いいねぇ!」

私がセリフを言った瞬間、担任がまた立ち上がって手を叩いた。

「ものすごく切実な感じが伝わってきたよ。今まで言えなかった言葉をようやく言えたみたいな!感動したぞ!佐久間もやればできるじゃないか!」

担任はえらく興奮して言った。

褒められるのは気分がいいものだった。

なんだろう。

私もこのセリフが言えて、妙にすっきりした気持ちになっていた。

これが演じるってこと?

自分じゃない自分が、自分じゃない言葉を言うって。

ヒロの方を見ると、微笑んで私を見ていた。

顔が一気に熱くなる。

わ。

やば。

完全に気持ち持ってかれてるみたいじゃない。

いやいや、これはあくまで演技であって、本気じゃない。

演じてるから、一瞬そういう風に感じただけだわ。

大きく深呼吸した。
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