あの日みた月を君も
なんとなく横からの視線を感じて大山ヒロを見ると、ばっちり目が合った。

前髪の奥の目は結構大きくてキラキラしている。

な、何よ。

どうせふてぶてしい女、とでも言いたそうな顔で。

その視線からプイと顔を背けた。

出席順で一人ずつ自己紹介が始まった。

誰も知らないメンバーの名前と顔を早く覚えろだなんて、覚える気もないのにできるはずもない。

「知らない人達の前で自己紹介なんて、ドキドキするね。」

後ろからコソコソとカスミのささやく声がした。

別にドキドキしないし。

私はカスミをスルー。

両腕を組んで、自分の順番を待つ。

趣味、趣味なんてこんな知らない人達に言って何か得なことでもある?

でもねぇ。

特別な趣味のない私にはこれしかないのよ。

「はい、次の人、お願いします。」

担任が私の顔を見てにっこり笑った。

私は無表情のままその場に立った。

「佐久間リョウ、S中学出身。」

先生が、「趣味は?」と急かすように聞いてきた。

趣味を言わなさそうな人間に見えたんだろうか。ふてぶてしい顔で立ってるし。

「趣味は、月を眺めることです。」

どうせ、誰の耳にも残らない。

だけど、正直に言ってやった。

「へー、佐久間さんは月の観察が好きなんだ。」

先生が拾わなくていい言葉を拾った。

月の観察と月を眺めることは全然意味が違うんだけど。

でも、いちいち取り合うのも面倒だったから、少し微笑んで頷くとすぐに座った。
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