あの日みた月を君も
アユミは「え?」と言って、ストローから口を離した。

そしてかすかに微笑んだけれど、その微笑みはとても寂しそうに見えた。

「今日は、その話はやめましょ。」

「いや、知っておきたいんだ。」

思わず語調が強くなった。

今確認しておかなかったら、きっとずっと僕の中にはアユミが存在し続けるような気がしていた。

そして、ほのかな期待と共に、僕は前に進むことができないまま。

アユミはストローでメロンソーダ-の氷をかき混ぜながら言った。

「結婚は、・・・しなくちゃならないと思うわ。」

「しなくちゃならないっていうのは、するってことだね?」

「うん。だけど、私はしたくはない。ちゃんと社会に出て働きたかった。」

それだけ?

しばらくの沈黙があった後、アユミは続けた。

「そうしたら、またこうやってソウスケとも映画観に来れたかな。」

アユミが寂しそうにうつむく姿を見て、僕の胸の奥がきしむように痛んだ。

また、来ればいい。

映画なんかいくらでも付き合う。

それに、結婚したくないならしなければいい。

もう少しで言いそうになる。

だけど、僕がそんなことを言ったらアユミを苦しめることもわかっていた。

それに、僕自身がアユミを幸せにできる自信もまだない。

自分に自信が持てる時まで待っててほしいなんて、虫のよすぎる話はできるわけもなかった。

僕はだまったまま、ただコーヒーが冷めていくのを見つめていた。

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