あの日みた月を君も
「あのね、今から観る映画、実は女学校の時、本で読んだことがあるの。」

アユミは僕の気持ちを察してか、つとめて明るい声で話しかけてきた。

「そうなんだ。じゃ、君はストーリーはもう知ってるんだ。」

「ええ。とても感動するストーリーだったわ。それを実写で見れるなんて、本当にワクワクしちゃう。」

アユミは胸を押さえて、おどけた調子で笑った。

「特にね。ラストシーンがいいの。今思い出しても鳥肌が立っちゃうくらい。」

「じゃ、映画を楽しみにしてるよ。だから僕にはそのラストシーンは言わないで。」

僕は人差し指を立てて自分の口元に持っていった。

アユミは楽しそうに自分の唇にチャックをする真似をした。

「そろそろ行こうか。」

僕は腕時計を見て、立ち上がった。



映画のストーリーは、案の定恋愛物だった。

宗教の違いで恋愛が許されない2人が人目を盗んで愛を育んでいく。

だけど、楽しい時間はあっという間で、親に見つかり2人は引き離される。

最後になんとかして彼が彼女に会いに行き、2人手を取り合って誓う。

誓うその言葉がラストシーンだった。

『もし生まれ変わることができたなら、生まれ変わった君を真っ先に探しに行く。どんなことがあっても君を見つけるから。』


隣の席のアユミはラストシーンが終わってエンドロールが流れている間中、ハンカチで顔を覆って泣いていた。

まるで子供みたいにしゃくりを上げて。

そんなアユミの手をそっと握って、「大丈夫だよ。」って言ってあげたかった。

でも、できない。

そんな自分が不憫でしょうがなかった。

映画館から出ると、外はもう暗くなっていた。

アユミは、「今日は家で弟のお誕生日パーティがあるから、もう帰らないといけないの。」と言った

もう少し一緒にいたかった僕は、

「じゃ、君の家の前まで送っていくよ。」

と言った。

2人でゆっくり会えるのも、今日が最後かもしれないのに、このまま帰ってしまうことがどうしても嫌だった。










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