あの日みた月を君も
「実は僕は地学を受け持っています。なので天体観測は昔から好きなんだ。佐久間さん、是非今度月の話を聞かせてくれ。」

少し微笑んだのに気をよくしたのか、担任はそんな言葉を続けた。

別に、天体観測は好きじゃないし。

私が好きなのは、月。

どうして好きかって言われたら、自分でもよくわからない。

小さい頃から、いつもそばに月があった。

特別不良娘で夜な夜な出歩いていたって訳じゃないけど。

ふと、感傷的な気分になってた時に空を見上げたら月があって、その月がまたものすごく大きくて白くて、夜空を照らしていた。

月には色んな顔がある。

ある時にはすごく小さくて、そのくせものすごい光を放ってたり。

真っ赤に燃えるようなどろどろの月を地平線近くで見たこともある。

うっすらと昼間の青空に現れる、気づいてほしいのかほしくないのかわからない白い月も好きだった。

昔からお日様よりも月の方が好き。

月を見ると、胸の奥がぐっと締め付けられるような時もあった。

どうしてそんな風に自分がなるのか全然わからないけれど。

後ろでカスミが緊張した声で自己紹介をしていた。

開けられた窓からふわっと風が流れ込む。

緑と土のいい匂い。

今は春なんだ。

皆が希望に満ち溢れて、新しい場所で新しい人達と出会う。

どうして、こんな風になっちゃったんだろ。

ため息をついて、また頬杖をついた。

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