あの日みた月を君も
マサキはぐいぐいとグラスのビールを飲み干すと、自分で更に継ぎ足した。

「あ-。うまいな。」

「マサキは今日は仕事休みじゃなかった?」

つまみを口に入れながら、マサキに尋ねた。

「いや、そうなんだよ。本当は3ヶ月ぶりの休日だったんだけどさ、急に隣町で火事があったとかでさ取材頼まれちゃって。参ったよ。」

「相変わらず忙しくしてんだな。」

「お前も忙しいんだろ?夢に向かって研究は進んでるのか?」

マサキはビールを飲みながら、おどけた調子で聞いてきた。

「いや、研究はなかなかだよ。研究の機材もまだまだ足りないし。まずは生産ありきで夢への到達は難しいな。」

「夢って、お前が描いてる研究って何だよ。」

マサキは、ビールをもう1本追加で頼んだ。

「そうだな。例えば、もっと熱に強くて強固なプラスチックを開発したいね。」

「ほう。いいね。」

マサキはうなずきながら、つまみを箸で摘んだ。

「でもさ、お前も知ってるだろうけど、最近そういう化学技術開発が進むに伴って公害問題起きてるだろ。」

あ、ああ。

大手の化学メーカーが随分とそれで叩かれていたのは知っていた。

「そういう公害が起きないようなプラスチックって作れねぇの?」

マサキはえらく真面目な顔をして言ってきた。

「研究していけばそういうことも可能だと思う。」

「まずはそこじゃない?研究対象は。」

わかっていたけれど、そこまでの研究予算をうちの会社で生み出すのはかなり困難だった。

僕はため息をついて残ったビールを飲み干した。



< 54 / 123 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop