あの日みた月を君も
ヒロはいつものように長めの前髪の奥からクールな眼差しを私に向けていた。

ドクン。

「お前、あの役交代するのかよ?」

無表情で、背の高いヒロが静かに言った。

やっぱり聞かれてた。

「悪いけど、聞こえちゃってさ。お前が最後にそんなこと言ってたの。」

思わず、ヒロの視線から目を逸らす。

「どこから聞いてたの?」

「お前が近藤カスミと交代するってとこ。」

よかった。

その前から聞いてたわけじゃないんだ。

「だって、元々カスミがする役だったんだもの。元に戻るだけよ。私には荷の重い役だったから。」

「あの女子達に何か言われた?」

女子達って、ちゃんと見てるんじゃん。

「別に。」

最初から説明するのも面倒で言わなかった。

「俺的にはさ、今更、交代もどうかと思うけど。」

「そう?セリフも二個しかないし、誰でもできるわ。」

「じゃ、お前がやればいいじゃん。」

やけにしつこかった。

「俺は、お前にやってもらう方がいいけど。」

ヒロの目があの稽古の時みたいに真剣な色をしていたので思わず顔が熱くなる。

それで、思わず言っちゃったのよね。

そこまでヒロに真剣に言われちゃったら、さ。

「来週まで考えとく。」

って。


ショウコのソフトクリームが溶けて、コーンに伝ってきてた。

「ショウコ、たれてるたれてる!」

「わ、本当。」

あわててショウコはコーンにたれたソフトクリームをなめた。
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