あの日みた月を君も
「まぁ君が言いたくなければ、それで構わないけどね。」

ヒロは少し気分を害したような口調で私から顔を背けた。

ヒロみたいにあまり感情を露わにしない人間でも、すねることがあるんだ。

少しだけ親近感。

「中学の時の親友と会ってたの。」

ヒロの横顔に言ってみた。

ヒロの目が私の方に向けられる。

「そうなんだ。遅くまでしゃべってたんだね。女子達ってさ、よくそんな長い時間しゃべることがるもんだっていつも感心するよ。」

「女子には色々語らないといけない話題がたくさんあるのよ。単純な男子にはわからないでしょうけど。」

「単純な僕にはわからないね。」

ヒロはくすりと笑った。

怒るかと思ったのに、笑うんだ。

笑ったヒロの口元に少しだけ八重歯がのぞいた。

あんだけキスシーンで顔近づけてたのに、ヒロの八重歯に今気づくなんて。

まぁ、演技してるときは恥ずかしくてヒロの顔なんてほとんど見てなかったけど。

「明日から撮影だね。」

「うん。」

「佐久間さんがやってくれるんだろ?ラストシーン。」

「そうね。今更だから、やっぱり私がやることにするわ。」

「よかった。」

ヒロは息を吐きながら小さな声で言った。




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