あの日みた月を君も
episode-6
episode-6


ミユキと結婚して、ミユキの家、すなわち社長の家に同居することになった。

同居とは、思っていた以上に気を遣う。

トイレ一つ、風呂一つ入るにも、家族の目線や行動に配慮しなければならない。

恐らく向こうはさほど僕の行動は気にも留めていないと思うが。

ミユキの亭主になったところで、なかなか居候感が消えなかった。

夜の営みも、やはり下で寝ているであろう社長夫婦の存在が気になった。

そのため、僕は仕事帰り飲みに出かけることが多くなり、ミユキが寝てしまってから帰宅することも増えていった。

社長もそんな僕たちの様子を懸念してか、夫人と2人で泊まりで出かることもしばしばあった。

でも、逆にそれがプレッシャーにもなっていた。

早く子供を作れ、っていう。

ミユキはまだ幼いせいか、その当たりの社長の意図に気づいてはいなかったし、僕が毎晩のように遅くに帰っても「いつも忙しいのね。」とねぎらってくれた。

そんなミユキの優しさすら、自分の胸をチクチク刺すこともあった。

やはり、ミユキと僕はふさわしくなかったのかもしれない。

今更だと思いつつも。


結婚して一年ほど経った頃、珍しくマサキから連絡が入った。

受話器の向こうのマサキは相変わらず、気が急いているのか早口だった。

「元気か?」

「ああ、なんとか。」

「なんだそれ。新婚気分満喫してんじゃないのか?」

マサキは笑った。

満喫なんてほど遠い言葉を聞きながら、ため息をつく。

「今度俺の行きつけのバーで一緒に飲まないか?」

「行きつけのバー?マサキも一著前に行きつけなんて場所できたんだ。」

マサキは大きな声で笑った。


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