あの日みた月を君も
マサキと会う金曜日の朝。

いつものように社長と向かい合って朝食をとっていた。

「ソウスケくん。どうだ、最近仕事の方は。」

社長は、コーヒーをすすり、新聞に目をやりながら尋ねた。

「はい。研究の方はなかなか時間がとれず苦戦しています。社長から引き継いだ経営管理の方も習得するのに時間がかかってしまい申し訳ありません。」

「そうか。こちらも君に経営を任せる予定で色々と余計な仕事を頼んでしまっているからなぁ。申し訳ない。」

「いえ、そんなことは。」

僕は少しだけ残ったコーヒーを飲み干して、椅子を引いた。

「ソウスケくん。」

立ち上がろうとした僕に社長は言った。

「君に研究部長をやってもらいたい。」

「研究部長?」

あまりに唐突な任命だったので、思わずまた椅子に座り直した。

「これまで君にはなかなか研究の時間を与えられず、私も悩んでいたんだ。会社の経営状態も今期は好調だし、研究部門を新しく設けようと思ってる。是非に君のこれまで蓄積してきた研究開発の思いをその部門でぶつけてもらいたい。そして、これから先、うちの会社を盛り上げる製品を作ってもらえないだろうか。経営管理の方はひとまず僕と秘書のモリくんとで進めておくから、君には研究に没頭してもらいたい。」

こんないきなり棚からぼた餅的な任命を受けていいのだろうか。

僕がこれまでやりたかったことが、一気に出来る状態になるなんて。

この間、ミユキを抱いた時に、僕がこぼした研究をやりたい思いをミユキが社長に伝えたのではないかとも思わずにはいられなかった。

でも、僕にとっては最高の任命だ。

「はい、喜んで受けさせて頂きます。」

僕はしっかりと社長の目を見て答えた。

「そうか、よかった。また部門メンバーや研究開発内容については相談させてくれ。」

「はい、よろしくお願い致します。」

僕は深々と社長に頭を下げた。

体中からわき上がってくる思いが今にもあふれだしそうだった。

これまで貯めておた僕の夢が実現する日に一歩前進したには間違いない。

その日はマサキに会うまで、体がふわふわしていた。

待ち合わせの駅の改札で、マサキがあらわれた瞬間、思わずその肩を掴んで、

「やったぞ!」

と拳を握りしめた。


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