あの日みた月を君も
「マサキくんの隣のかわいらしい男性は?」

ママがにっこりと赤い口元を緩めて尋ねた。

「俺の親友。ばりばりの研究者なんだぜ。」

マサキはニヤッと笑って僕を見た。

「初めまして。多治見ソウスケです。」

「あら、フルネームで挨拶する男の人なんてなかなかいないわよ。とても律儀なのね。まぁ今日はゆっくりしていって。」

ママは、カウンターの上にお冷やとぬれたタオルを置いた。

僕らはお冷やが置かれたカウンターの前に座る。

「とりあえずビールで。」

マサキは手慣れた感じでママに頼んだ。

ママが縦長のグラス入れてくれたビールは、その辺の居酒屋で飲むビールよりも泡が細かくておいしかった。

僕はママが向こうの客としゃべってるのを確認して、小声でマサキに聞いた。

「随分若いママだね。僕らより少し上くらい?」

「いや、若く見えるけど、僕より10才上だよ。」

「えー、そんな風には見えないな。かなり若く見えるよ。」

「うん、かわいい人だ。」

そう言いながら、マサキはママを目を細めて見つめていた。

「マサキ、まさか、お前?」

僕は半分冗談でマサキの肩をこづきながら言った。

マサキは返事をしなかった。

そして黙ったまま少し泡の減ったビールに口をつけた。

ひょっとしたらマサキは10才も年上のママに恋をしているのかもしれない。

ま、それはそれで、マサキらしいか。

どういう記事でどういう関係で知り合ったのか、まだそこまで踏み込んで聞けない空気があった。

また機会を見つけて聞こう。

「ソウスケは研究職にまた復活できるみたいだけど、奥さんとは仲良くやってんのか?」

僕はビールを飲みながら、「まぁね。」と答えた。


< 80 / 123 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop