あの日みた月を君も
「ソウスケのまぁねは、あんまりってことが多いからな。降って湧いたような研究部長の話もさ、実は裏があったりして。」

「なんだよそれ。」

「職業柄か疑い深くなっちゃって気を悪くしたんなら謝るよ。」

「別にいいけどさ。お前の考えはどうなんだよ。その裏ってのは。」

「いや、自分の娘とよろしくやってくれよっていう意味もあるのかなぁって。そろそろ子作りも頼むよ、的な。」

まぁ、それはあるかもしれない。

「別にミユキと仲が悪いわけじゃないけどな。帰りが遅くてなかなか顔見れないってのはあるけど。」

「それまずいんじゃない?なかなか子供ができないのはそのせいかって思うぜ。わざと遅く帰ってるのかもしれないって、勘のいい人間なら察するんじゃない?」

「わざとって何だよ。」

「お前、そんなに奥さんのこと好きじゃなさそうだからさ。結婚する前から。」

「そんなことないさ。一緒にいて楽しいし面白い人だから結婚したんだ。」

「んま、それはそうかもしれないけどさ。どこかで忘れられない人がいてすっきりしてないようにも見える。」

「何が言いたいんだ?」

「俺が去年渡したアユミちゃんの連絡先には連絡してみたか?」

財布にまだ入れてることは言わなかった。

「結局できてない。」

「やっぱりか。」

ママがマサキの空になったグラスに気づいて、

「おかわり?」と尋ねた。

「うん、ビールお願い。」

マサキはママに微笑んだ。

あいつ、こんな優しく微笑むことあるんだ。

「やっぱさ、前に進むときは、一件落着しなきゃ進めないと思うんだよね。俺。」

マサキはビールをグラスに注ぐママの姿をじっと見つめていた。

「だからさ、ソウスケはまだアユミちゃんのこと心に残ってんだろ?ちゃんと決着つけてこいよ。って今更だけどな。」

「ほんと、今更だよ。俺、結婚してんだぜ?のこのこアユミに会いに行ったりしたのがばれたら大変だと思うけどな。」

「結婚前に、会っておけばよかったのに。お前はいつもとろいんだ。」

「とろいとは何だよ。」

思わず吹き出した。

マサキの悪態は、ちっとも腹が立たない。

それは彼の持ってる徳なんだと思う。
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