あの日みた月を君も
「久しぶりに会いたいな。」

気がついたらそんなことを言っていた。

アユミが受話器の向こうですごく戸惑っているような気がした。

もしいい男性がいるなら、アユミの性格上、きっと断るにちがいない。

僕が結婚しているって事実を知っていたとしても、同じように断るだろう。

マサキに言われた通りだった。

僕の中には、まだアユミがずっと残っていた。

だから、ミユキを心から愛せない。

自分が愛するべきなのがアユミとわかっていながら、ずっと自分をだまし続けてきた。

もっと早く、この思いをアユミに伝えるべきだったのに、逃げてきたんだ。

「私も会いたい。」

アユミの声が耳の奥にすーっと届いた。

アユミも?

胸の奥がズキンズキンする。

痛みに似た気持ちが、開けては行けない蓋を開けようとしているような。

「次の君の休みはいつ?」

「明日、だわ。」

「明日、会おう。」

手に持っていた全てのコインを投入した。

僕は、アユミと明日会う約束をして。


会うだけだ。

アユミが元気にしているかどうか。

そして、今の僕が結婚していることをきちんと話そう。

2人で会うのは明日が最後かもしれない。

きちんと向き合って、自分の気持ちにけじめをつけるために会う。

だから、誰も裏切らない。

アユミの将来の幸せも裏切ってはいけないんだから。
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