あの日みた月を君も
次は本番。

妙に冷静さが戻った私は、本番はしっかりセリフも言えた。

思っていたよりもあっけなくヒロとのラブシーンは終わった。

終わってしまった。

取りこぼしたシーンを何個か撮影して、全ての撮影はおしまい。

その後は、担任の編集技量に任されるわけで。

「おつかれ。」

ヒロが私の頭上で言った。

「うん、おつかれ。私はそんなに疲れてないけど、あなたはたくさんセリフもシーンもあったもんね。」

「まぁね。でも、思ってた以上に楽しかった。」

「そうね。」

最初は嫌でたまらなかった映画の撮影も、皆と作っていくうちにとても楽しくなっていってた。

全てのシーンが愛おしいって感じ。

裏方に回らなくてよかったって、今は思える。

ヒロの横顔も満足気な雰囲気が漂っていた。

「学祭が終わったら、いよいよ部活本格始動だな。」

ヒロは最後の撮影をしている現場を眺めながらつぶやいた。

「本格始動って、また大層な言い方ね。部員はまだ二人しかいないんだし。」

って、あ。

カスミに言うの忘れてた。

カスミは、っと。

丁度撮影真っ只中だ。

帰りに忘れないように伝えなくちゃ。

ヒロの横顔に話しかけた。

「ね。あなたはいつが空いてるの?」

ヒロの目がようやくこちらを向いた。

「いつでも構わないよ。」

「じゃ、カスミに予定聞いてみる。部活の話、また色々聞かせてあげて。」

ヒロはふんともすんとも言わず、そのまま前を向いた。

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