さくら 咲け



私のクラスから沙奈のクラスまで、約十数メートル。



そこを歩いている間に、私の真横を走って通り過ぎる人がいた。



その人は沙奈のクラスの前で立ち止まり、ある人の名前を大声で呼ぶ。



「良太!辞書ありがと!!」



凍った。



身体が、凍ってしまった気がする。動かない。顔の筋肉も動かなくなってしまった。今、私はどんな顔をしているんだろう。



「麻奈ちゃん、大丈夫?」



沙奈が横で私の顔を伺う。



「う、うん、大丈夫」



やっと動いた筋肉を動かして、足を前に踏み出す。



「辞書本当にありがとう!また今度も借りると思うからよろしくね♪」



その人は良太くんとニコニコ笑顔で話している。



「バカ。もう貸さねー」



良太くんがその人と接する姿は私の見たことのない表情で。



「はっ!?なんてことを!

まぁどうせ貸してくれるんでしょ!良太優しーもん」



「大体、なんで圭介に借りねーんだよ」



あぁ、2人は仲がいいんだなって。



「圭介は彼女いるじゃーん

でも良太はいないから楽チン♪」



分かってしまった。



「ふざけんなっての

もう忘れんなよ?」



「努力はするね!

じゃっ!」



そう言ってまた走って戻っていく先輩。


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