愛され婚~契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます~
伊吹は深いため息を吐き、俺を責めることをやめた。

「わかりました。瑠衣さまのアパートまでお送りします。長澤さんがいるかもしれませんが。明日にしますか?」

本当は怖い。彼女に拒絶されたなら行き場を失う想いを、どうやって捨て去るのかわからない。
だがもう、逃げることなどできはしない。
自分で始めたゲームを、この手で終わらせるまでは。

「いや。今から向かう」
「車を手配いたします」

伊吹が部屋を出る。

蝶ネクタイを首から抜き取り、ワイシャツのボタンを外す。
寄り添って船を降りるふたりの姿が目に焼きついて、息苦しい。

彼女に会ったら、今度は俺が尋ねる。
俺と生きる未来を考えたりはしないのかと。

『私は逃げだしたりはしないわ』
彼女の言葉が脳裏を掠める。

答えが見つからないまま、俺は部屋をあとにした。





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