愛され婚~契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます~
船の前に停まっていた車に乗り込む。

軽く固めていた髪をクシャッと崩すと、窓の外に停泊している船を見つめる。

月明かりの下で、夢のようだと笑う彼女の顔を思い出す。
あのとき、伊吹が言うように、その身体を抱きしめればよかったのか。「好きだ」と耳元で囁けば、君は頷いたのか。

聖羅のように愛の見返りを求めずに、俺も瑠衣に手を伸ばせば、この苦しみが消えたのか。

どれだけ心で問いかけても、答えてくれる彼女の笑顔はない。

走りだした車の中で色々考えるが、どこからが間違いであったのかさえもわからなくなっていた。

『到着いたしました。一階右側のお部屋です』

車内スピーカーから運転手の声が聞こえ、車を降りた。

小さなアパートの一階右側の部屋には、灯りがともっている。

一歩一歩、扉に向かって歩く。

インターホンを押し、彼女の返事を待った。
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