愛され婚~契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます~
「いったぁ……」

二人同時に倒れこみ、頭を押さえながらそっと顔を上げた。

相手の男性も、床に座り込んだ姿勢で俯いている。

「あ、あの。すみません、大丈夫ですか」

驚きと動揺で混乱しながら尋ねる。

「あ……ああ。君は……?」

彼は顔を上げないままで聞き返してきた。

「はい。……なんとか」

そんな彼をじっと見つめる。
誰だろう?

嫌味が得意な山根部長ではなかったことに、そっと安堵する。

「すみません。急いでいて前を見ていなくて」

慌てて言い訳を始める。

「いや。……俺も同じだから。ちょっと追われてて」
「追われる?なんでですか」

思わず声に出してしまう。追われるって?社内で?
よほどのミスでもして、怒られる寸前なのだろうか。そんなことを考えながら、私はゆっくりと立ち上がった。
どうやら彼のほうが、衝撃が大きかったようだ。
まさか、ケガとかしていないでしょうね⁉

「ここで急に会わせるつもりだなんて、普通は思わないよな?」
「は?」

なんの話かさっぱりわからず、私は首をかしげる。
その瞬間に、彼がようやく顔を上げた。

「……え」

この顔は。どこかで見たことがある。



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