愛され婚~契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます~
「本当にそうなの?確かにあり得ないとは思ったけど」

沙也加はくわしく聞き出すことを諦めたようだ。
パソコンに向かう。

「あっ。見て。噂をすれば」

彼女の言葉に顔を上げる。
厳しい表情をした奏多さんが、大勢の人を引き連れて目の前を歩いていく。

現実的ではないほどの、雲の上の人。
好きになることすら、普通はあり得ない。出会うことなどできはしないのだから。

「そうかー。気まぐれだったのか。私もからかわれてみたーい」

彼はこちらに目を向けることすらなく、通り過ぎていった。
笑顔で声をかけてきたことのほうが、夢だったのだ。

そのとき、彼の後ろを歩く人の中に、女性の姿があることに気づいた。
彼女は東堂聖羅さんだった。

私に彼との終わりを告げた人。彼女には感謝している。
知らずにいたなら、後悔してもしきれない傷を負うところだった。
軽く会釈をすると、彼女も笑顔で返してくれた。

彼には彼女がふさわしい。
美しくて家柄もよく、彼女の持つすべてが彼のためになる。

足がすくんで歩けないことも、ダンスが踊れないことも、彼女ならばないだろう。

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