愛され婚～契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます～
「沙也加、ごめん。ちょっとトイレ」

気分が悪くなり、沙也加に声をかける。

「え？もう？お酒、苦手だったの？付いていこうか」
「いいの。ありがとう」

心配する彼女に言って席を立つ。
そのままトイレではなく、店の外に出た。

今夜は風が強い。
船の上で感じた風を思い出して、ギュッと目を閉じた。
ゆっくりと深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
閉じた目から涙がこぼれてくるのを防ぐように、上を向く。

どうしても、なにをしても、本当は片時も頭から離れない、奏多さんの笑顔。
思い出さないように努力しても、最後に見た悲しげな顔が消えない。

彼の最後の問いかけに対する答えは、ずいぶん前から出ていた。
いつも本当のことならば、と夢見ていた。

本物になれるのならば、なにを失ってもよかった。あなたさえそばにいてくれるなら。

その場にしゃがみ込んで、私は泣いた。
ルールを破って、あなたを本気で好きになった。




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表紙・目次

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