愛され婚~契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます~
今すぐにあなたの元へと駆けていき、あなたを強く抱きしめたい。
もう一度、私の耳元で『かわいい』と囁いてほしい。

私の心を根こそぎ奪って、あなたは今夜の風のように通り過ぎていった。

今はその腕に、東堂さんを抱いているの?
私にしたように、甘く優しいキスをしているの?

「う……っ」

今の私の口から漏れるのは、甘くとろけるような吐息ではない。苦しみの中から生まれた嗚咽だけ。

彼を失った喪失感が、私の心を襲う。
失うことがこんなに辛いのならば、私は二度と誰も愛さない。

「奏多さん……」

「はい」

え?
顔を上げる。
目の前に見えるのは、綺麗に磨かれた革靴。

え?え?
上を見上げると、腰を屈めて私を真上から見下ろす顔があった。

「呼んだ?」

「奏多さん……嘘」

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