愛され婚~契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます~
この一瞬の間になにが起こったのか、どうして私は彼とふたりきりでここにいるのか、すべてのことが信じられないでいた。

「ところで君は?ごめん、今さらだけど」

不意に聞かれ、申し訳なさそうな顔をしている彼を見上げた。
空室の会議室に、彼の声が響く。

「わ、私は……営業課の有森瑠衣です」

名乗るのが精いっぱいだ。

彼の地位もさることながら、その綺麗な顔に見とれる。
彼が彗星のごとく現れてから、これまでに数多くの経済誌の表紙を飾ることとなったのも納得できる。

「有森さんか。いきなり付き合わせて、本当にごめんね?」
ふわっと表れたその笑顔が、私の動悸をさらに激しくする。

「いっ!いえ!では、私はこれで!」

ガバッと頭を下げると、彼を見ないように身体をドアに向ける。

「待って!ちょっと俺の話を聞いてくれないか。君に……頼みたいことがある」

彼の言葉に足を止める。

「な……なんでしょうか」

お茶?それとも、社屋の案内?
だけど、彼はなぜか追われていたし……。そんなことじゃないか。
あ、抜け道?
そうひらめいて振り返った。

「裏口までのご案内なら、私にもできます。誰にも会わずに、社外へ抜けることができますよ。あ、今のうちに、タクシーを呼んでおいたほうが確実です」


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