愛され婚~契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます~
自信満々で言う。
会社本部のCEOにぶつかって転ばせた罪滅ぼしが、その程度で済むならばラッキーだ。

「ふっ。ふはは」

だが彼は、一瞬きょとんとした後で笑いだした。

なにか変なことを言ったかな。わからない。
首をかしげる私に、彼は首を軽く横に振った。

「そんなことじゃないよ。君は面白いね」

話しながら目の前の椅子に座り、長い足を優雅に組む。

「君も座って。まず、俺が今置かれている状況から話すよ。どうして秘書から逃げているかからね」

言われるがままに少し離れた椅子に、彼と並んで座る。
一社員でしかない私に、なにを言いたいのだろう。
穏やかな話し方から察するに、私を解雇したいとかではなさそうだ。

「決算会議のためにここを訪れた。すると、エレベーターの中で秘書の携帯が鳴ったんだ。相手は月島建材の社長。彼の娘さんが俺の到着を待っていると、声が漏れ聞こえた」

「あの……?」

「このパターンはこれまでに何度かあったから、すぐに察しがついたよ。ここ最近やたらと、娘さんだとか親戚だとか言って、女性を紹介されるんだ。俺には結婚願望がないからさ、会ってしまうと困るんだ。結構皆、必死でね。追われると、女性恐怖症になりそうだよ」

「はぁ……そうなんですか……」

どう答えたらいいのかわからず、相槌を打ちながら聞く私に彼は饒舌に話す。
誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。

私が悩んでいる海斗との関係とは程遠いが、なんとなく彼の気持ちがわかった。


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