愛され婚~契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます~
周囲からの、異様な圧力。
意見が通らないもどかしさ。
先への不安。

どうしても抗えない、大きな力に押しつぶされそうになる。

結婚という、人生を決める一大イベントを、周りに言われるがままに決めることなどできない。
きっと彼も同じなのだろう。

「一度……お会いしてから、お断りするのでは……」

私が言いかけると、彼が話を遮る。

「ダメだよ。彼女たちは簡単には引き下がらない。会ってしまうと、怖いほどに追ってくる。月島の名がほしいのだと思うけど」

ですよね。
月島グループのCEOで、これだけの容姿ですから。
出会った瞬間に恋に落ちますよ、そりゃ。
私だって気を抜くと、雲の上の人だということも忘れて、惚れてしまいそうですし。

言いかけてやめる。
私はそんなに恐れ多い気持ちにはならないが、顔はずっと火照ったままだ。心臓も落ち着く気配すらない。

「そこでね?……君に頼みたいことが出てくるんだけど。さっきひらめいたばかりなんだ」

ずいっと私に顔を近づけてくる彼の動きに合わせて、私は身体を反らせた。

「は、はい」

ビクビクしながら話の続きを待つ。

「俺が思いついたことは王道だから、わかるよね?君がこの場合、俺にとってどう役に立つか。俺にすでに結婚相手がいたなら、そんな話はなくなるよね」
「はい?」

顔が引きつってくる。
まさかね。
いやいや。

私は庶民ですから。相応しくはないですよ。
いや、自惚れているわけじゃない。だけど、この話の流れは、どう考えても。

「君とぶつかって、ちょっと痛かったし驚いたけど、いいタイミングで出会ったよ。君は俺にとっての救世主だよ。……瑠衣」
「ええっ……」

いきなりの名前呼びですか⁉
しかもその、やたらと色っぽい笑い方、やめてほしいんですけど。
本当に勘違いしますから。

そう思ったが、またしても言葉を飲み込んだ。



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