愛され婚～契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます～
「えっ。今日は？いや、違う。これからしばらくだよ。俺にお見合い話が、ぱったりとなくなるまでね」

「しばらく⁉困ります」

私が大きな声で言うと、彼はため息をついた。

「だよな。会ったばかりなのに恋人のフリだなんて、普通はできないよな。しかもおのずと、結婚前提という設定になってしまうからね。君にとってはなんのメリットもない話だ」

突然彼に、先ほどまでの勢いがなくなった。自分に言い聞かせるように、彼はぼそぼそと話す。

「結婚前提……。そんな」

スッと立ち上がると、彼が私に背を向ける。

「すまなかった。やはり、今の話は忘れてくれていいよ。本当は身体は、どこも痛くなんかない。まあ、初めからバレていたとは思うけど。下手な脅しをかけただけだ」

私は座ったまま彼の背を見上げていた。

「自分で言うのも変だが、俺がこんな提案をしたら大抵の女性は引き受ける。君は俺が誰なのかを知っても、媚びた様子も見せないし、他の女性たちとは明らかに違ったよ。そんなところがいいと思ったんだ。仕方ない。今日はこのまま、社長の娘さんに会ってくるよ。君が言うように、きちんと断ればいいだけの話だしね」

彼は私を振り返ると、にっこりと笑った。

「正直ちょっと面倒だったんだ。女性からしつこく追われることに、もううんざりしていた。好きな人がいると言えば、断りやすいし諦めてくれると思い、君を利用しようとした。だけどそれは、人としてダメなことだったよな」



< 21 / 184 >
表紙・目次

この作品をシェア

pagetop