愛され婚~契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます~
彼は首をかしげる。

「君が自分の気持ちを正直に話せば、その婚約は破棄できるんじゃないかな。なにも俺の提案に乗らなくてもさ」

引け腰の彼を、ギッと睨むように見上げた。

「私の話なんて、誰も聞いてはくれません。このままだと本当に結婚させられてしまう。もしも嫌なら、雲隠れするか、実家と縁を切らなきゃいけないかも。だけど逃げ出して、もう家に帰れないのも嫌だし……」

「ご両親には、君の気持ちを話してはいないの?」

きっと誰にもわかってはもらえないのかもしれない。
田舎で決められた婚姻に、町中の期待がある世界なんて。そこに本人の意思なんて関係ない。それをおかしいだなんて思う人もいないのだ。

「両親は私が生まれた瞬間に、海斗との結婚を決めたそうです。好きになれないからだなんて理由を、納得はしません。何度も伝えてきたけれど、わかってはくれません。親戚に対しても、明確な理由もないのに破談になったなんて言えなくなっているんだと思います」

彼は必死で訴える私を、不思議そうな顔で見下ろしていたが、ふっと笑顔になった。

「俺には結婚願望がない。俺が婚約者のフリをして、君のご両親を欺くことはできても、そのまま君を好きにはならないよ?必ず終われると約束できるのなら、君の願いを叶えるよ。もちろんそれと同時に、君には俺と結婚してもらう。一年くらい経てば拠点を海外に移すから、それまでね。それでお互いの利害が一致する」

「利害の一致?」

聞き返すと、彼は真剣な顔をした。

「万が一、この嘘が誰かに知られて失敗したら、俺にはお見合い地獄、君には幼なじみとの結婚が待ち構えている。やるからには真剣に、誰にも悟られないようにしなければいけない。その覚悟はある?」

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