愛され婚~契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます~
「瑠衣。挨拶は終わった?」
そのとき、入口のドアのほうから声がして、皆は一斉にそちらを見た。
そこには、身体をドアに預けて腕を組み、立っている男性がいた。
「え……!嘘」
「なんで?本物?」
「どうして?」
静まり返っていた場がざわつき始める。
「おっそい。いつまでやってんの。ずっと待ってんだけど。予定が推すとランチの時間が取れなくなるだろ」
注目を集めながらも、彼はにっこりと私に向かって笑う。
口調はきついが、怒っているわけではなさそうだ。
「CEO?どうして。社長室は……」
私は彼がなんの躊躇いもなく、あえてここに現れたような状況をつくったことが理解できなかった。周囲を驚かせるだけのような気がしたからだ。
彼と別れてから十五分ほど経過しているだろうか。
社長室での話は、もう終わったのか。
「どうしてって。君も俺と一緒に行くんだよ。車を待たせてあるから。会議なら急用だと言って明日に延ばした。社長の娘さんとは、瑠衣のことを話した瞬間に話は終わったよ。泣かれて参ったけど、なんとか逃げてきた」
彼は話しながらこちらに向かって歩いてくると、私の目の前に立った。
「荷物は?これだけ?」
私の横に置いてあった箱をひょいと持ち上げ、肩にのせると、もう片方の手でさっと私の手を握った。
ぎゃー!なんなんですか、これは!なにがしたいんですか!
皆が見てますよ!離して!
そう言いたいが、言葉にならない。
パクパクと魚のように口を動かす私を横目で見下ろし、彼はクスっと笑った。
「驚かせてごめんね?でもちょうどよかった。瑠衣にこんなに重たいものを持たせずに済んだからね。これは俺の役目だろ」
彼が言うと、女性たちが「きゃー!」と騒ぐ。
「瑠衣が俺の大切な人だと、皆さんに知っておいてもらいたくて迎えにきたんだ」
「どっどうして、そんな……」
「君に逃げられないようにするためじゃない。俺は本気だからさ」
私はどう返したらいいものかわからず、ただ唖然としながら彼を見上げていた。