愛され婚~契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます~
「じゃあ行こうか。皆さん、いつもお疲れさま。業務に戻ってください」
涼しい顔で言うと、人垣をかき分けて彼が歩きだす。
「ちょ……っ」
私は彼に引きずられるようになりながら、手を引かれて歩いた。
「月島CEO。ちょっと待ってください」
そのとき背後から呼ばれ、彼は足を止めて振り返った。
「急にアシスタントが異動するなんて、俺は聞いていません。せめてひと月くらいの猶予が必要なんじゃないでしょうか。有森も戸惑っていると思います」
緊張した顔で言った山内さんを、全員が見た。
「……ふぅん。まあ……確かにそうかもね。君は?」
CEOは山内さんを見下ろして眉をひそめた。
「営業課の山内です。彼女とは今まで一緒にやってきたので、親しくしてきました。仕事面においても、彼女が急にいなくなると困ります。せめて代わりの人をよこしてからだと有難いんですが」
「山内さん」
自分が先ほど希薄な関係だと思ったことが申し訳なくなった。
心に温かいものがこみあげる。
「引き継ぎもありますし、もう会えないのも寂しいものがあります。俺は有森の面倒を、彼女が入社してからずっとみてきたので」
「そうか。……でも残念だけど、瑠衣は俺の彼女だしなぁ。君に譲ることはできないんだよね。もうじき俺と結婚するしね」
えっ⁉
皆が私とCEOを交互に見る。
え。待って。なんて言ったの?
確かにそう約束したけど、いきなりここで言う!?
私は頭が混乱する。
「……有森……お前……?」
山内さんが呟いた瞬間。
「きゃー!マジ⁉マジなの?」
「瑠衣ちゃん!どういうこと⁉結婚!?」
静まり返っていた皆が、一斉に騒ぎだした。